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最高裁判所第一小法廷 昭和30年(オ)264号 判決 1957年2月07日

理由

(前略)

仮りに第一審原告主張のような債務不履行および不法行為上の責任が第一審被告にあるものとするも、右債務不履行乃至不法行為による被害者の精神上の苦痛は通常債務の履行又は物質上の損害の賠償によっていやさるべく本件において第一審原告がその主張のような慰藉料の支払を受けるのでなければ慰藉することができない精神上の苦痛を受けたとの事実については、これを認めうる証拠がないから、右第二の請求は失当であると判示したことは、論旨第七点のとおりである。しかし、原判決のいうように、仮りに、第一審原告主張のような債務不履行、ことに、その主張のような不法行為上の責任が第一審被告にあるものとすれば、その相手方たる第一審原告は、特段の事情のない限り、なんら精神上の苦痛を受くべきことは、事物当然の結果であって、これを否定し得ない事実であることはいうを待たない。そして、その精神上の苦痛に対しどれだけの慰藉料を支払ふのを相当とするかは、当該債務不履行もしくは不法行為に関する諸般の事情に即して裁判所が判断すべき事項であるから、右の諸般の事情そのものは証拠によって認定しうるとしても慰藉料の数額のごときものについては、証拠によって判断し得べきものではないといわなければならない。従って原判決が、何等首肯するに足りる特段の事情を判示することなく(債務不履行乃至不法行為による被害者の精神上の苦痛は通常債務の履行又は物質上の損害の賠償によっていやされる旨の原判示は、首肯できない。)、本件において第一審原告が、その主張のような慰藉料の支払を受けるのでなければ、慰藉することのできない精神上の苦痛を受けたとの事実については、これを認めうる証拠がないから右第二の請求は失当であると判示して慰藉料の請求を排斥したのは違法である。

(後略)

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